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名古屋高等裁判所 昭和53年(う)365号 判決 1979年2月21日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人平塚子之一、同中嶋友司連名の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官原田芳名義の答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用する。

一、控訴趣意中、事実誤認等を主張する論旨について

所論は、要するに、本件においては、被告人が原判示渡海谷勝及び同棚瀬康之との間で原判示のごとき医薬品の製造を共謀した事実を認めるに足りる措信し得る証拠がないのはもちろん、当時、被告人に原判示のごとき医薬品製造についての犯意があつたことを認めるに足りる措信し得る証拠もないのにもかかわらず、原判決が、右の犯意及び共謀の点を否認する原審公判廷における被告人の供述を排斥して、たやすく原判示事実を認定し、該事実につき被告人を薬事法違反罪に問擬したのは、ひつきよう、審理不尽の結果、事実誤認の違法を冒したものである、というに帰着する。

しかしながら、原判決挙示の各証拠(但し、後記措信しない部分を除く。)を総合すれば、原判決の罪となるべき事実は、所論にかかわらず、所論の犯意及び共謀の点に至るまで、すべてこれを肯認するに十分である。もつとも、被告人は、原審公判廷において、おおむね所論に沿い、前認定に牴触する趣旨の供述をしているが、被告人の該供述は、原判決挙示の爾余の各証拠、就中、その内容等に徴しいずれも十分措信することのできる被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書並びに原審証人渡海谷勝、同棚瀬康之及び同志賀勇の原審公判廷における各供述等と対比して、にわかに措信できず、記録を精査しても、他に前認定を左右するに足りる措信し得る証拠はない。所論は、原判決が、「弁護人の主張に対する判断」の欄においてした、所論被告人の犯意及び共謀の点に関する補足説明部分に事実誤認のかどがある旨をあれこれ論難するが、原判決の所論説明部分は、原判決挙示の各証拠に照らして、すべてこれを正当として是認することができ、記録を精査検討しても、原判決の所論説明部分に所論のごとき事実誤認等の違法のかどは毫も認められない。なお、所論は、原判示リポクレイン錠合計約三四〇万錠は、原判示渡海谷勝らが、被告人不知の間に、原判示株式会社アスナロ化工研究所に対しその製造方を注文するなどして製造させたもので、被告人においては、これが製造に全く関与していないから、原判示リポクレイン錠合計約三四〇万錠の製造について、被告人が薬事法違反罪の刑責を負うべきいわれはない旨を主張するが、原判決挙示の各証拠、就中、原審証人渡海谷勝及び同志賀勇の原審公判廷における各供述等に徴すれば、被告人が、原判示株式会社アスナロ化工研究所に対して、所論のリポクレイン錠合計約三四〇万錠の製造方を発注し、さらには該製品の納入を受けるなど、これが製造については、終始関与していたものであることを明認するに十分であるから、右所論はとうてい採用することができない。その他、所論に徴し、記録を精査検討しても、原判決の事実認定はすべて正当であつて、これに所論のごとき事実誤認のかどは毫も認められず、論旨は理由がない。

二、控訴趣意中、法令の解釈適用の誤りを主張する論旨について

所論は、要するに、被告人が原判示リポクレイン錠の製造に関与した段階においては、その使用目的の表示又は演述等の措置は全く講じられていなかつたから、右段階では、右錠剤の使用目的は客観的にも明確ではなく、したがつて、これがいまだもつて薬事法二条一項二号該当の医薬品としての要件を充足するに至らないものであることは明らかであるにもかかわらず、原判決が、被告人の原判示リポクレイン錠製造行為をもつて、ただちに同法二条一項二号該当の医薬品を製造した行為にあたるとしたのは、前同法の解釈適用を誤ったものである、というに帰着する。

しかしながら、薬事法二条一項二号所定の「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物」の解釈について、通常の判断能力を有する一般人の理解において、その物の外観、形状等に照らし、その物に右のような使用目的性のあることが認められることを要し、かつこれをもつて足りる、とした原判決の判断は十分支持するに足るものであり、しかも、これによれば、いわゆるPTP包装のほどこされた糖衣錠である原判示リポクレイン錠が、その外観、形状等に照らし、所論医薬品としての表示又は演述等をまつまでもなく、優に薬事法二条一項二号所定の医薬品に該当することは明らかであるから、これと同旨の原判決の所論判断は、もとより正当として、これを是認すべきであり、これに所論のごとき法令の解釈適用の誤りは毫もなく、論旨は理由がない。

よつて、本件控訴は、その理由がないから、刑事訴訟法三九六条に則り、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

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